先日、所用で感染症の予防接種をうけた。看護婦さんに腕をまくられ、ガーゼで腕を消毒されたとき、久々にかいだ消毒用アルコールのにおいに、ものすごく懐かしい気持ちになった。
小学生のころに受けた予防接種で、授業中にソワソワしながら注射の時間を待つ不安感とか、注射の順番を目前にし、怖くて泣きそうだけど友達がいる手前強がる強情さとか、注射が終わり、「たいしたことねえな」とやっぱり強がりながらも隠せない安堵感、そういう昔の記憶がぱっとよみがえり、非常にセンチメンタルな気持ちになっていたら、いつのまにか注射が終わっていた。

このような現象は、割とよく知られた現象であるようで、「プルースト効果」という名前が付けられている。これは1871年生まれのフランスの作家、マルセル・プルーストに由来したもの。プルーストの代表的な小説である「失われた時を求めて」の文中において、主人公がマドレーヌを紅茶に浸し、その香りをきっかけとして幼年時代を思い出す、という描写があり、ここから、嗅覚や味覚から昔の記憶が呼び覚まされることをプルースト効果と呼ぶようになったのだそうだ。

杏林大学医学部・古賀良彦氏のコラム「匂いと脳」によると、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうち、匂いを感じる嗅覚は脳内の伝達経路が異なっており、脳の中で原始的でもっとも本能に近い感覚を司る「大脳辺縁系」に届けられるのだそう。そのため、匂いはもっとも感情を刺激する感覚だという指摘もあるのだそうだ。
嗅覚についてはまだまだ分かっていないことが多いのだが、「懐かしいにおい」も、このような体の働きが関係している可能性は高い。

ちなみに、「gooランキング」には、「ふと昔を思い出してしまうにおいランキング」というものがあり、その結果は以下のようになっている。

1位 プールの消毒剤のにおい
2位 天日で乾かした布団のにおい
3位 お線香のにおい
4位 祖父/祖母の家のにおい
5位 古本屋のにおい
6位 徳用マッチを擦った後のにおい
7位 田んぼのにおい
8位 たき火のにおい
9位 潮のにおい
10位 注射のアルコール綿のにおい

誰でも、どれか1つくらいは、 「うんうん、確かに思い出す!」と思ってしまうような結果なのではないだろうか。冒頭の「注射器のアルコール綿のにおい」も10位にランクインしており、かろうじてではあるが「懐かしい匂い」のメジャーどころであることがうかがえる。ただ筆者の場合、9位の「潮のにおい」については、海に面していない県で育ったために懐かしくはなく、どちらかというと川のコケっぽいにおいを懐かしく感じる。

また、1位のプールの消毒剤のにおいについては、子どものころに水泳のスパルタ教育を受けたていたため、懐かしいというよりは何とも言えないやるせない気持ちがよみがえってくる。
当たり前だが、「懐かしいにおい」は人それぞれちょっとずつ異なるのだ。

ちなみに、化粧品やバス用品を販売するラッシュジャパンが2009年に行った調査では、20〜30代の男女のうち49%が、「香り」で元カレ、元カノを思い出す、という結果が出ている。筆者は香水をつけない派なので、誰にも思い出してもらえない可能性が高い。ま、そもそも彼女なんてほとんどいませんでしたけどね。
(エクソシスト太郎)